第73回獣医師国家試験の総評と対策

第73回獣医師国家試験

はじめに

獣医師国家試験は例年、新卒の90%以上が合格できる試験である。しかし、第73回の新卒合格率は88.6%と、例年と比較して難しい年度であったことは間違いないであろう。

 

第73回獣医師国家試験試験結果

区分 受験者数 合格者数 合格率
新卒 983人 871人 88.6%
既卒 193人 81人 42.0%
その他 20人 8人 40.0%
1,196人 960人 80.3%

一方で、医師国家試験や歯科医師国家試験とは異なり、必須問題70%以上、ABCD問題で60%以上を得点できれば全員が合格できる試験でもある。多少、合格率の変動はあるが、順当な国試対策勉強を行えば過度に心配する必要はないであろう。どのような勉強を行えば良いのか、各問題をテーマに見ていこう。

 

必修問題

今回の必須問題の難易度は、例年並みと言えるだろう。特に奇抜な問題はなかったが、ホットな話題であるSARS-CoV-2のPCR検査に関する問題も出題されていた。例年通り、この問題も常識的な判断で回答していれば正解できる問題であった。

おすすめ勉強法

必須問題対策としては、法律関係は必須問題の過去問を利用してしっかりと押さえておきたい。それ以外の分野は、基本的にはABDC問題の過去問演習をやり込んでおけば、全く心配いらないだろう。と言うのも、ABCD問題を解くにあたって、必ず押さえておかなければならない知識問題が大半だからである。

「必須落ちが怖い」と、どの受験生も思うところではある。しかし、実際に必須落ちする受験生は、そもそもABCD問題が取れていない場合が多い。自信をもって臨もう。

 

 

学説試験問題A

今回のA問題の難易度は例年並みであろう。一方、解剖分野に関しては難しく感じた受験生も多かったのではないか。解剖は重箱の隅を突くような問題が出題され得るので、勉強の成果がなかなか出にくい科目である。したがって、解剖に関しては難易度変化に敏感になりすぎる必要はない。

おすすめ勉強法

一言で言うならば、解剖は後回しにして深追いしない、ということである。解剖は出題数が多いのでついつい勉強を深めがちではあるが、聞いたこともないような問題が出る場合が多い。

したがって、過去問で複数回出題される項目については語呂を使ってでも力ずくで覚えるが、それ以外は深追いせず軽く流す程度でも良いだろう。ほとんどの受験生がこの作戦であるので、割り切る気持ちが大事である。

 

一方、しっかりと押さえておく必要がある重要科目は、微生物学と生理学である。この二科目は他科目と密接に関連している。特に、微生物を制するものは獣医国試を制するといっても過言ではないほど、多くの科目の基本となる。表などにまとめられている項目は、正確に暗記しておきたい。

また、生理学は薬理、内科を理解する上で必須である。ヒトの生理学の参考書やyoutube動画で問題ないので、暗記というより理解することに重点を置こう。

 

 

学説試験問題B

今回のB問題は多少難化したと言える。全体を通して、問題の出題テーマはメジャーなものであったが、選択肢が絞り切りづらいと感じたのではないだろうか。多くの受験生が同じように感じるので、焦る必要はない。

おすすめ勉強法

臨床問題が出題されるのがB問題の特徴である。では、どのような勉強をすれば臨床問題が解けるようになるのかというと、生理学の理解である。疾患は基本となる生理現象がなんらかの原因によって乱れることで症状として現れる。

そのため、過去問で臨床問題を解き進めていく中で、わからない問題に当たったときは一度生理学を見つめ直すことをおすすめする。生理学がわからない状態で臨床問題を進めてもただの暗記に頼ってしまい、変化球問題に対応できなくなってしまうだろう。

 

また、B問題は文章のみの出題であるが、必ず問題に関連する写真にも目を通そう。CD問題にも対応できるようになるので、効率が良くなる。麻布大のカラーアトラスは必携である。

公衆衛生分野が出題されるのもB問題である。マニアックな法律や制度の問題が出題されることがあるが、結局は過去問で出題された問題しか皆解けない。あれもこれもとたくさん覚えようとせず、過去問で出題された問題を確実に抑えよう。

 

 

実地試験問題C

今回のC問題の難易度は例年並みである。概ね過去問での定番テーマが多い印象であった。しかし、問2のアトピー性皮膚炎モデルマウスの標識遺伝子の問題や、問31のヌートリアを答えさせる問題など、正答率がかなり低いであろう問題も見られた。

おすすめ勉強法

C問題は一般的に点数が取りにくいと言われている。D問題に比べ、問題文にヒントが少なく、画像を見たことがなければ正解が難しいからである。対策としては、C問題は点数が取りにくいと割り切り、過去問C問題のみならずABD問題で出てきた画像もしっかり叩き込むことである。また、麻布のカラーアトラスには多くの画像が掲載されている。これをベースに勉強仲間とクイズ形式で出題し合えば記憶のきっかけになるのでおすすめである。

 

 

実地試験問題D

今回のD問題の難易度は例年並みである。過去問で見たことのあるテーマばかりであったであろう。

おすすめ勉強法

D問題はC問題と比較して点数がとりやすい。連続問題になっているため、1問目がわからなくても2問目をヒントにして解答できるからである。出題テーマも、AB問題でテーマとされる内容が多い。

したがって、D問題に対する特別な勉強をするよりも、過去問でAB問題を解き進める中でその都度、麻布のカラーアトラスを確認して覚えることが最も効率が良い。AB問題に対して、順当な勉強をしてきた受験生ならば高得点が期待できる。

 

 

全体のおすすめ勉強法

上述のように、ABCD問題について科目の特性を踏まえた勉強法を紹介してきた。しかし、最も重要な勉強法が、勉強仲間と一緒に勉強をする、と言うことである。これは必ず守っていただきたい。おそらく、国試を突破した獣医師に「国家試験に落ちる人の特徴は何か?」と問えば、「一人で勉強していること」と十中八九返ってくるであろう。それほど、獣医国試において一人で勉強することはリスクと言われている。

 

理由としては、周りの受験生と足並みを揃えられないからと言うのがある。周りと同じレベルで勉強していれば、落ちることはまず起こらないといって過言ではない。周りの受験生は覚えているのに自分は覚えていない、もしくは、周りの受験生は捨てているのに自分だけやけに詳しい、といったことがあれば要注意である。

勉強仲間

国試浪人生の場合、上述のように勉強仲間を作ることは難しいかも知れない。そのような場合には、予備校を利用する、SNSで勉強仲間を募る、後輩に頼み込んで勉強会に参加させてもらう、など、いろいろ方法はある。とにかく、誰かと勉強のペースを揃えよう。

勉強のペースを合わせるためには、仲間と同じ教材を使用する必要がある。北大まとめをベースに、日獣の科目別過去問集、麻布カラーアトラスを使用していけばまず間違いないだろう。

 

最後に

私自身、国家試験受験から早3年が経った。今思い返せば、辛いというよりも、楽しかった思い出が強い。仲間と問題についてあーだこーだと議論しながら勉強し、大晦日だけ研究室で酒を酌み交わした、なんていうのも忘れられない思い出となっている。ぜひ、勉強仲間を大切にし、合格を勝ち取っていただきたい。

 

この記事を書いた人

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獣医師/伊藤寛人

PMD長崎校所属

  • 麻布大学獣医学部卒。
  • 第70回獣医師国家試験合格。
  • 獣医師。
  • 現在は、人獣共通感染症に特化した医師を志し長崎大学医学部に学士編入学、4年次在籍。