研究室配属(2)

 

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前回に引き続き、研究室に関する記事です。

私の配属先での課題は、サラセミアという血液疾患に関するものでした。サラセミアというのは、血液中で酸素を運搬しているヘモグロビンを十分な量つくることができない遺伝病で、東南アジアやインドなど熱帯地域に広く患者が分布しています。軽症型は治療の必要はないのですが、重症型は重度の貧血を引き起こすため、頻繁に輸血をする必要があります。しかし輸血を繰り返すと、血液に含まれている鉄分が体にどんどんたまっていき、肝不全や心不全を引き起こします。これは非常に大きな問題で、サラセミアの重症患者は多くの場合、鉄過剰が原因の心不全で30歳までに死亡します。

配属先の研究室では、サラセミア患者に対する輸血量を必要最小限にするために、患者が現在本当に輸血が必要かどうかを調べる検査薬を研究していました。私の仕事は、実験に加わるのではなく、その検査薬をどのような戦略で世界に広めていくのかを考える、というものでした。薬剤というのは、いい薬だから世に広まるわけではありません。利益が出る薬でなければ製薬会社が乗り気にならないからです。利益をだすためには、薬がどれだけ売れるのか(患者数や一人当たりの使用量)、価格をどこまで引き上げられるのか、開発コストをどれだけ抑えられるか、特許をとって専売できるかどうか、認可や特許の取得などの手続きをどれだけ早くおわらせることができるか、など様々な要因が絡んできます。トータルでバランスのとれた薬でなければ、なかなか世に出すことができないのです。

これまで大学など学術寄りの研究機関では、こうした事情に無頓着で、単に良い治療法を考案することに注力してきました。しかし最近では、大学も産学連携や特許戦略を重視するようになりつつあり、研究する際にも実用化を見越した計画を立てる必要があります。(例えば、特許取得予定の成果は論文発表を遅らせる、など)

自分で調べてみて実感したのですが、企業との連携や特許取得などのための手続きは煩雑で時間がかかるため、研究に専念したいと考える生粋の研究者にはなかなか浸透しにくいです。このため、研究事情にも明るいスタッフがこうした手続きをサポートする部署が必要になってきます。私の大学でも最近そうした部署が設立され、今回の実習で見学させてもらうことができました。

次は民間企業の研究所を見学したときのお話しです。