第5回 未来の地域医療を担う君たちへ〜メッセージ
これまで4回にわたって、私自身の原体験や能登の地域医療の現状、自治医科大学での学び、そして地域に根ざして働くことの意義についてお話ししてきました。最終回となる今回は、これから医学部を目指す皆さんや、将来地域医療に関わりたいと考えている若い世代に向けて、私からのメッセージをお届けします。
1. 医学部受験生や将来地域医療を志す若い世代へのメッセージ
医学部受験生や将来地域医療を志す皆さんは、「なぜ医師になりたいのか」と問いに対して、さまざまな理由を持っていることと思います。家族の経験からかもしれませんし、部活動でのけがや病気がきっかけかもしれません。志す理由は人それぞれでかまいません。大切なのは、自分なりの「原点」を大事にすることだと思います。
地域医療の現場は、都市部と比べると医師の数も医療資源も限られています。その一方で、患者さん一人ひとりの距離は驚くほど近く、日常生活や家族関係までも含めて支える医師の姿勢が求められます。「病気だけを診るのではなく、人を診る」ことが自然と身につくのです。これはどんなに医学が進歩しても変わらない、医師の本質的な姿だと私は思います。
2. 地域医療の道に進むことの魅力や、得られる経験の豊かさ
地域医療の魅力は、幅広い診療能力を身につけられることと、人とのつながりの深さにあると思います。
都市部の大病院では、臓器別に細分化された専門医療が中心になります。もちろんそれも重要ですが、地域では小児から高齢者、内科から外科、救急から在宅まで、あらゆるニーズに応える必要があります。そのため、診療の能力や判断力が鍛えられます。実習で離島の診療所を訪れたとき、限られた検査機器しかない中で、医師が患者さんの症状や生活背景を丁寧に聞き取り、最も合理的な対応を選んでいる姿に感銘を受けました。
また、地域医療の現場では「患者さん=地域の住民」との関わりが続いていきます。診察室でのやりとりにとどまらず、買い物帰りに声をかけてもらったり、地域のお祭りや行事で顔を合わせたりと、日常生活の中に医師が自然に溶け込んでいます。その関係性から得られる信頼と安心感は、都市部の病院ではなかなか味わえないものです。
3. 自治医科大学への進学を検討している学生への具体的なアドバイス(受験勉強、大学生活など)
自治医科大学は、まさに地域医療に特化したユニークな大学です。全国から集まった学生が、将来それぞれの地域に戻って医師として働くことを前提に学んでいます。仲間全員が同じ方向を向いているため、励まし合い、切磋琢磨できる環境があります。
受験勉強については、基礎をしっかり固め、毎日の積み重ねを大切にすることが一番の近道だと思います。自治医科大学の入試では、学力だけでなく、面接をとして「地域医療に対する思い」も見られます。ですから、自分の体験や思いを言葉にできるよう、日頃から考えを整理しておくと良いと思います。
自治医科大学の大学生活の特徴は、早い段階から地域実習があるところだと思います。低学年のうちから離島やへき地を訪れ、地域医療のリアルな姿に触れることができます。そこでの体験は、勉強のモチベーションを高める大きな原動力になります。また、同級生や先輩後輩とのつながりが強く、全国に仲間ができるのも心強い点です。
4. 地域医療に関心を持った人が、今からできること(情報収集、ボランティアなど)
例えば、地域医療に関する本や記事を読んだり、ドキュメンタリー番組を見たりすることは大きな学びになると思います。医師のインタビュー記事などを読むと、リアルな声に触れられます。また、地域のイベントのボランティアなども良いと思います。住民との交流を通して「地域のつながり」を体感する良い機会になると思います。必ずしも医療に直結していなくても、将来の糧になります。さらに、家族や身近な人の病気・介護、学校や部活動での学びを振り返ることで、自分がなぜ医師を志すのかという「原点」を整理するうえで大いに役立ちます。
冒頭でも触れたように、自分なりの「原点」を大切にする姿勢が、将来の進路を考えるうえで何よりも大切だと思います。
5. シリーズ全体のまとめ
第1回から第4回では、私自身の原体験や能登の地域医療の課題、自治医科大学での学び、そして地域に根ざして働く意義についてお話ししてきました。地域医療は決して都会に行けなかったから仕方なく行く道ではありません。むしろ、患者さんや住民に最も近い立場で働き、人として医師として大きく成長できる豊かなフィールドです。
これから地域医療を志す皆さんに伝えたいのは、自分の原点を大事にし、学び続ける姿勢を持ち続けてほしいということです。道のりは決して平坦ではありませんが、その先には、地域の人々に信頼され、感謝されながら働くかけがえのない日々があります。
未来の地域医療を志す皆さんは、ぜひ自分の思いを胸に、挑戦を続けてください。