上海中医薬大付属病院の見学(薬剤部)

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上海では、大学病院2つと日本人向け中医クリニックを見学してきました。今回は上海中医薬大付属病院の薬剤部についてです。

 

中国では西洋医学と中医学では、医師免許も大学の学部も別れて存在しています。上海中医薬大学は中国でも有名な中医薬大学のひとつで、大きな付属病院を複数持っています。そのうちのひとつ、市中医医院の薬剤部を見学することができました。

 

漢方や中医学では、生薬(いわゆる薬草)を調合して、それらをお茶のように煎じて飲んだり、粉薬や練り薬にして飲んだりします。ただ、使うたびに生薬の状態から作ると手間がかかるので、エキス剤(生薬を煎じた液を濃縮したもの)や、パッケージ化された薬(カプセルや錠剤)などが近年多くつかわれるようになっています。日本ではエキス剤を使用することが多く、その数はおよそ100種類です。中国はさすが本場というべきか、使用する薬の数は多く、エキス剤300種類、生薬600種類ということでした。また、日本ではエキス剤というと、葛根湯エキスなどの調合済みのものしかありませんが、中国では人参エキス、麻黄エキスなどといった単一の生薬のエキスが数多くあるのも違いの一つです。中医学では、葛根湯などの調合レシピはあくまで参考で、レシピは医師がおのおの創意工夫を重ねて作り上げるもの、という考え方があるためです。

 

この病院の薬剤管理室でも、広い部屋の中に数多くの薬剤が棚に並んでおり、たくさんの薬剤師が医師の書いた処方箋にしたがって薬剤を用意していました。漢方薬の小売店のように、生薬は瓶や袋にどさっっと入っているのではないかと思っていたのですが、実際には小分けに袋詰めされた状態で工場から出荷されてきておりました。工場での品質チェックも十分なされているそうです。各袋にはバーコードがついており、患者それぞれの薬を用意する際にスキャンして、漏れや間違いが無いようになっていました。20種類以上の生薬が使われることも珍しくないため、ミス防止のためにも在庫管理のためにも、こうしたシステムは薬剤師にとって非常にありがたいはずです。(昔はさぞかし大変だったのでしょう。。。)見学した薬剤管理室は、衛生面もシステム面もよく管理されていた印象を受けました。なお、この病院は中医学と西洋医学の融合を目指した病院で、医師も薬剤師も中西両方の薬を処方できる許可をもらっているそうです。

 

薬剤管理室の次は、薬剤工場を見せてもらいました。この病院では、消費量の多い、テンプレ調合レシピに関しては、あらかじめまとめて作りおきをしています。機械をつかって、一度に200人分の薬を2日程度かけて作成します。作成した薬は、正確に調合できたか、雑菌が混ざっていないか、などが検査されたのち、使用されます。飲み薬、塗り薬、それぞれ数種類を製造しているようでした。工場のほうは、もうすぐ建て替えということもあり、古くてあまり衛生的ではありませんでした。

 

中国の医師は、生薬一つ一つの性質をよく理解しており、その上でオリジナルの調合レシピを作っていました。見せてもらった処方箋では、30種類近く混合した薬も多く、混ぜると効果が薄まるしている日本漢方との考え方の違いも感じました。常に試行錯誤を重ねていくという姿勢は、数多く存在した伝統医学の中で、中医学をここまで発展させてきた要因の一つなのでしょう。