「なぜ、医師として地域医療を志したのか」ーー能登の今と向き合う医学生の思い

自己紹介(出身、医師を目指したきっかけ)

はじめまして。

自治医科大学医学部5年の牧和音です。

石川県能登町出身で、地元の能登高校を卒業後、1年の浪人を経て、自治医科大学に入学しました。

もともと私は、人と直接関わりながら地域の役に立つ仕事がしたいと考えていました。

祖父母や父親が教員をしていたこともあり、教師という職業は私にとっては身近な存在であり、教師として地元で働くことができれば、地域に貢献できると考えていました。

そんな中、高校1年生の冬に進路について考える時期があり、担任の先生から「医師になって地元に戻れば、地域の人々と直接関わりながら、地元に貢献できる」と医学部受験を勧めてもらったことが、医師を目指すきっかけになりました。

私の地元は医師不足が深刻な地域であり、医師という存在が地域にとってどれほど大きな役割を果たしているかを、そのとき初めて強く意識しました。

それまで私は、医学部というのは小さい頃から塾に通い、県内でもトップクラスの進学校に通うような人たちが目指すものというイメージを持っており、自分には無縁の世界だと思っていました。

しかし、この担任の先生の言葉をきっかけに、少しずつ医師という道を現実的に考えるようになりました。

 

地域医療に関心を持つにようになった原体験やきっかけ

担任の先生から医学部受験を勧められたことをきっかけに、私は地元・能登の医療の現状について調べたり、自分なりに考えたりするようになりました。

その中で特に強く感じたのは、私の地元の医療には時間的・経済的な負担が大きく、特に高齢者にとっては体力的な負担も大きいということです。

例えば、車を運転しない祖父母が病院に通う際、平日の日中は同居する家族も仕事に出ているため、移動手段は限られており、1日に数本しかないバスでの通院を余儀なくされていました。

バス移動は長時間の待ち時間や交通費の負担、高齢者にとっては体力的な負担など、通院には多くの障壁があることを実感しました。

また、父ががんになった際には、家から車で1時間の距離にある病院で手術を受けることになりました。

母は、仕事が終わってから往復2時間かけて見舞いに通っており、その大変さを間近で見てきました。

こうした経験を通じて、「医療が身近にある」ということが、患者さんやその家族にとってどれほど大切かを実感し、次第に地域医療への関心が深まっていきました。

能登の医療現状を知った経緯

地元・能登での日々の生活や家族の体験を通して、地域住民が直面する医療アクセスの困難さを実感してきました。

通院に多くの時間と費用がかかるうえに、特に高齢者にとっては移動そのものが大きな負担となります。

また、必要な医療が近くにないことは、患者本人だけでなくその家族にとっても精神的な不安をもたらします。

安心して暮らせる地域には、生活に根ざした医療が欠かせないのだということを身近な経験から強く感じるようになりました。

都市部の医療との違い、地域医療ならではの魅力とは何か

都市部の医療では、診療科ごとに高度に専門化されており、複数の医師がそれぞれの専門分野から一人の患者さんをみる体制が整った環境です。

一方で、地域では医師の数が限られているため、ひとりの医師が患者さんの複数の疾患や健康課題を総合的に診ることが求められます。

こうした環境では、全人的な視点と幅広い知識が必要となると同時に、患者さんの生活背景や価値観を理解しながら関わることができます。

日常的な会話を通して患者さんとの距離が近くなり、信頼関係の中で医療を提供できることは、地域医療ならではの魅力だと感じます。

また、地域では介護・福祉施設などの連携先が限られるからこそ、医療と介護の連携がより密接であり、顔の見える関係を築きやすいと感じます。

高齢化が進む社会において、こうした連携の深さは、地域住民により細やかなサービスを提供するうえで重要であると感じています。

このように、患者さんの生活に深く寄り添いながら医療を提供できることに、大きなやりがいを感じられるのではないかと考えており、その点に大きな意義と魅力を感じています。

 

あらためて地域医療を志す理由

能登半島地震を経験し、改めて自分がこの地域をどれほど大切に思っていたのかに気づかされました。

美しい自然、穏やかな時間の流れ、そして何より、温かく優しい人々。私は、そんな能登に強い愛着を抱いています。そして今も、その大切な場所で自分も働き、貢献したいと心から思っています。

地震という大きな災害を経てもなお、能登に住み続けたいと考えている人たちがたくさんいます。

私は、そうした人たちが「医療が足りないから」という理由で能登での生活を諦めざるを得なくなるような状況を、決して生みたくありません。

だからこそ、私自身が医師として能登に戻り、地域の人々に必要とされる医療を提供する一員となりたいと、改めて強く感じています。

地域の人々の健康と安心を支える存在となれるよう、今後も覚悟と責任を持って学びを深めていきたいと考えています。

この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL