第4回 地域に根ざすということ〜医師としてのやりがいと壁
1.
実際の医療現場(地域の中核病院や離島の診療所などで得た経験)
自治医科大学では、低学年の頃に夏季研修として離島の診療所を訪れたり、5年生の夏休み明けには地域医療臨床実習を行なったりと、将来働くことになる地域の病院や診療所で学ぶ機会が設けられています。
地域の病院では、大学病院と比べて医師と患者さんとの距離が近いだけでなく、看護師やリハビリスタッフなど他職種との距離も近いことが特徴的でした。特に訪問診療では、患者さんが入院中よりもいきいきとした表情を見せており、患者さんの生活の場で診療を行うことの意義を強く感じました。
訪問診療の導入にあたっては、患者さん本人だけでなくご家族との理解と合意が不可欠であり、そのためには日頃から良好な医師患者関係を築いておくことが大切です。
また、在宅医療では多職種連携が病院での医療以上に重要であり、普段からのコミュニケーションを通して信頼関係を育むことが求められると感じました。
さらに、地域医療では自分自身の成長がそのまま地域医療の質の向上につながるという実感を得られました。
石川県の離島の診療所では、自治医科大学卒後3年目の若い医師が派遣される仕組みがあります。島民の方々は、その医師がまだ経験の浅いことを理解したうえで、「自分たちが育てていくんだ」という気持ちで接してくださるそうです。
ときには家に招かれ、診察室では聞けないような不安や悩みを打ち明けてくださることもあり、地域に根ざした信頼関係の深さを実感しました。
2.
地域住民との関わりの中で感じた喜びや、信頼関係を築くことの重要性
地域の病院は大学病院と比べて高齢の患者さんが多く、治療方針の立て方にも違いがあると感じました。
大学病院ではガイドラインに基づき可能な限りの治療を行うことが一般的ですが、地域の現場では「その治療に患者さんが耐えられるか」「侵襲的な検査をしてまで確定診断を行う必要があるのか」といった観点も考慮する必要があります。
病気を治すこと以上に、病気と付き合いながらより良い生活を送ることを大切にしている点が印象的でした。
夏季研修や地域医療臨床実習で地域住民の方々と接する中で、生活の場に寄り添いながら治療方針を一緒に考えることの大切さを学びました。
そのためには、信頼関係を築くことが不可欠です。
患者さんの生活の背景や困りごとを理解し、ともに歩む姿勢があってこそ、医師としてのやりがいを実感できるのだと思います。
3.
多様な疾患や状況に対応する必要がある地域医療の難しさ、大変さ
地域の現場では、診療科を問わず多様な疾患に対応する必要があります。
大学病院のように専門医が多数いる環境とは異なり、まずは地域の医師が「最初の窓口」として幅広い疾患を診なければなりません。
高齢化が進む地域では、慢性疾患の管理に加え、急性期疾患や在宅医療への対応も求められます。
また、単に病気を診るだけではなく、患者さんの生活全体も視野に入れなければならない点も地域医療の難しさの一つであると思います。
例えば、治療方針を立てる際にも医学的に最適な方法が、必ずしもその患者さんにとって良い選択とは限りません。
高齢の方であれば、家族の介護力や住環境、経済的背景なども大きく影響します。
こうした要素を総合的に考え、患者さんやご家族と一緒に最善の方針を模索することは非常に大きな負担であると同時に、地域医療の難しさだと感じました。
4.
医療資源が限られる中で創意工夫することの重要性
地域の医療機関は、検査機器や人員などの医療資源が限られています。
そのため、大学病院のようにすぐに詳細な検査を行うことができず、限られた情報から最善の判断をくださなければならない場面が多々あります。
こうした状況では、医師個人の診断力や判断力に加えて、チームとしての創意工夫が求められます。
例えば、病診連携や遠隔医療の活用、さらには住民や行政との協働も重要な資源となります。
制約のある環境だからこそ、柔軟な発想で工夫を重ねることが地域医療を支える鍵であることを学びました。
近年では、郵便局を拠点にオンライン診療を行う取り組みも注目されています。
郵便局は地域住民にとって身近でアクセスしやすい場所であり、まさにインフラのような役割を果たしています。
病院まで行くことが難しい高齢者や交通手段の乏しい住民にとって、郵便局でオンライン診療を受けられることは大きな安心につながります。
こうした仕組みを導入することで、比較的気軽に受診できる環境を整え、限られた医療資源の中でも持続可能な地域医療を実現できるのではないかと感じました。
5.
能登地方で具体的にどのような医療活動に携わりたいと考えているか、将来的なビジョン
私は、石川県能登町で生まれ育ち、能登の人々のあたたかさの中で医師を志しました。
将来は、義務年限中はもちろんのこと、義務年限後も、能登で地域医療に携わりたいと考えています。
特に総合診療医として、小児から高齢者まで幅広い世代を診療し、そこに住む人々の生活に溶け込むようなかたちで医療を提供できるようになりたいです。
病気の治療にとどまらず、日常生活の中での困りごとや健康への不安に寄り添いながら、地域住民が安心して暮らせる環境を支えていきたいと思います。
また、訪問診療や訪問看護などの在宅医療にも積極的に関わり、住み慣れた場所でその人らしく暮らしを続けられるように支えていきたいです。
能登地域医療の現実を知ることで、困難の中にあるからこそ地域に必要とされる姿を感じることができました。
今回得た学びを糧に、さらに知識と経験を深め、将来は地元能登に置いて安心して暮らせる医療を提供できるよう努めていきたいです。