医学部定員削減はなぜ始まる?医師需給・地域枠・臨時定員から読む医学部受験の変化

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医学部定員削減はなぜ始まるのか?
医師需給分科会・地域枠・臨時定員の流れから読むこれからの医学部受験

医学部定員見直しの背景には、単なる財政論ではなく、医師需給の変化、地域偏在対策、地域枠の恒久化、そして臨時定員増から適正化への政策転換があります。受験生・保護者が知っておきたい制度の流れを、一次情報に基づいて整理します。

はじめに

医学部定員の見直しは、単に「大学を減らす」という発想だけで出てきたものではありません。もともとは地域医療の現場で医師不足が深刻化する中、必要な医師をどう確保するかという医療政策として始まりました。その後、医師需給分科会の推計では、全国ベースでは2028〜2029年ごろに需給が均衡し、その後は供給が需要を上回る見込みが示される一方、地域偏在や診療科偏在は引き続き残ると整理されています。今回の定員適正化は、そのために進めてきた地域枠・臨時定員増の政策を、総数調整の段階へ移していく流れの中で理解するのが自然です。
出典:
厚労省・令和4年度以降の医学部定員と地域枠について
厚労省・今後の地域枠等の運用について

2026年4月23日の財務省提言は確かに重いものですが、医学部定員の見直しそのものは、すでに厚生労働省が進めてきた医師確保・偏在対策の議論の延長線上にあります。厚労省の2026年4月17日資料でも、2027年度の臨時定員方針と2028年度以降の医学部定員の方向性が正式に議題となっており、医師多数県では臨時定員を調整しつつ、恒久定員内地域枠の設置状況も考慮する仕組みが示されています。
出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(2026年4月17日)
厚労省・今後の地域枠等の運用について

1.医師確保政策は「増やす」ことから始まった

臨時定員増の政策は、地域医療の医師不足を背景に段階的に始まりました。厚労省の2020年資料では、①新医師確保総合対策に基づく2008〜2017年度の暫定増員、②緊急医師確保対策に基づく2009〜2017年度の増員、③地域医療再生計画等に基づく2010〜2019年度の地域枠中心の暫定増員、という流れが整理されています。つまり、現在の定員議論の出発点は、医師余りではなく、むしろ深刻な地域医療崩壊への対応でした。
出典:
厚労省・令和4年度以降の医学部定員と地域枠について

また、厚労省は2023年以降の資料でも、平成20年度より地域枠等を中心に、臨時的に医学部定員を増員してきたことを確認しています。全国レベルで医師数は毎年3,500〜4,000人程度増加してきた一方で、偏在対策が不十分なまま削減を行うと偏在が拡大するという懸念も、同じ資料の中で明示されています。
出典:
厚労省・医師確保対策の概要及び今後の課題・スケジュール等について
厚労省・医学部臨時定員と地域枠等の現状について

2.医学部総定員の推移を見ると、「増員フェーズ」から「適正化フェーズ」への移行が見える

まず、臨時確保政策が本格化する直前の2007年度から2026年度までの医学部総定員を並べると、2008年度以降に急増し、2017〜2019年度に9,420人前後まで達したあと、2020年代に入って高止まりから緩やかな縮小へ向かっていることが分かります。特に2026年度は、文科省の大学別一覧で9,376人とされ、2025年度の9,393人からさらに減っています。
出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針等について(年次推移図)
文科省・大学別医学部入学定員等一覧(R8計画)

年度 医学部総定員 年度 医学部総定員
2007 7,625 2017 9,420
2008 7,793 2018 9,419
2009 8,486 2019 9,420
2010 8,846 2020 9,330
2011 8,923 2021 9,357
2012 8,991 2022 9,374
2013 9,041 2023 9,384
2014 9,069 2024 9,403
2015 9,134 2025 9,393
2016 9,262 2026 9,376
表出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針等について
文科省・大学別医学部入学定員等一覧(R8計画)
※2007〜2025年度は厚労省資料の年次推移図、2026年度は文科省の大学別一覧の合計値を使用。

この表から読み取れるのは、医学部定員が「一気に削られている」というより、高止まりしていた総定員を、偏在対策を残しながら少しずつ絞り込む局面に入ったということです。厚労省も2026年4月の資料で、令和9年度の医学部総定員は、令和7年度の総定員9,393人に対し、地域の実情に配慮しつつも全体として削減が図られるよう臨時定員数を設定すると明記しています。
出典:
厚労省・今後の地域枠等の運用について
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(2026年4月17日)

3.ただし、医師需給分科会は「総数が均衡しても偏在は残る」と見ている

医師需給分科会や厚労省の関連資料では、2028〜2029年には全国レベルで需給が均衡し、それ以降は供給が需要を上回る見込みと整理されています。しかし同時に、地域枠は二次医療圏間の地域偏在を調整する機能、診療科間の偏在を調整する機能、さらに臨時定員増との組み合わせにより都道府県間の偏在を調整する機能を持つと説明されています。つまり、総医師数の話と偏在の話は、政策上は最初から別問題として扱われています。
出典:
厚労省・令和4年度以降の医学部定員と地域枠について

この点は受験生にとって非常に重要です。将来的に「医師余り」と言われても、それは都市部を含む全国総数の話であり、地方や特定診療科の不足がそのまま解消するわけではありません。厚労省の2024年資料でも、現行の臨時定員増に基づいた地域枠を継続しても、最も医師が不足している県では2036年時点でもなお医師不足が残る推計があるとされており、偏在対策を維持したまま定員の在り方を検討する必要があるとされています。
出典:
厚労省・医学部臨時定員と地域枠等の現状について
厚労省・令和8年度の医学部臨時定員と今後の偏在対策等について

4.その解決策として、地域枠は「臨時」から「恒久」へ移されつつある

こうした背景から、厚労省は単純に臨時定員だけを続けるのではなく、恒久定員内に地域枠や地元出身者枠を設置していくことを重視しています。2026年4月17日の資料でも、医師多数県の臨時定員を調整する際に、恒久定員100人あたり令和8年度までに恒久定員内地域枠を4人以上設置しているかが一つの判断材料とされています。
出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(2026年4月17日)

また、厚労省の2025年資料では、恒久定員内への地域枠設置は主に医師多数県で進んでいること、さらに令和6年度から令和7年度にかけて恒久定員内地域枠の増分が22名だったことが示されています。これは、増員した臨時枠をそのまま維持するのではなく、偏在対策として必要な部分を恒久制度に組み替えながら、全体定員は適正化する方向へ政策が動いていることを意味します。
出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針等について(2025年8月6日)

5.地域枠等の推移を見ると、偏在対策の比重が年々大きくなってきた

地域枠等は、医学部定員の増加と並行して拡大してきました。厚労省・文科省の最新資料では、2007年度173人(2.3%)だった地域枠等は、2024年度1,808人(19.5%)、2025年度1,837人(19.8%)まで増えています。つまり、この20年弱で、地域医療に従事する医師を意識した選抜枠の比重は大きく上昇してきました。
出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針等について(2025年8月6日)
文科省・令和7年度大学医学部における地域枠等の導入状況

年度 地域枠等総数 年度 地域枠等総数
2007 173 2017 1,657
2008 418 2018 1,676
2009 736 2019 1,689
2010 1,186 2020 1,690
2011 1,242 2021 1,725
2012 1,304 2022 1,738
2013 1,406 2023 1,773
2014 1,462 2024 1,808
2015 1,543 2025 1,837
2016 1,631 2026 同形式の総数未公表
表出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針等について
文科省・令和7年度大学医学部における地域枠等の導入状況
文科省・医学・歯学教育ページ(地域枠等資料一覧)
※2007〜2024年度は厚労省・文科省の年次推移資料、2025年度は文科省の令和7年度調査。2026年度は、同じ形式の総数集計を確認できなかったため未公表と記載。

この表の意味は明確です。医学部政策は、単に「定員を増やした・減らした」という話ではなく、どのような性格の医師を、どの地域に送り出すかを重視する方向へ変わってきました。地域枠の増加は、医師不足への単純な人数対応ではなく、偏在対策そのものが医学部入試制度の中に組み込まれてきたことを示しています。
出典:
厚労省・令和4年度以降の医学部定員と地域枠について
厚労省・今後の地域枠等の運用について

6.いま医学部政策は「縮小」ではなく、「再設計」の段階にある

こうして見ると、現在進んでいるのは、単純な定員カットではありません。地域医療崩壊への対応として始まった増員政策が、総数面では一定の成果を上げ、今後は総数調整をしながら偏在対策をどう維持するかという再設計の段階に入っている、と理解するほうが正確です。
出典:
厚労省・医師確保対策の概要及び今後の課題・スケジュール等について
厚労省・今後の地域枠等の運用について

したがって、受験生や保護者が注目すべきなのは、「医学部は定員が減るから難しくなる」という一面的な見方ではありません。むしろ、どの大学がどの地域枠を持っているか、恒久定員内地域枠がどれくらい進んでいるか、一般枠と地域枠のバランスが今後どう変わるかを見ていくことのほうが重要です。制度が動く時代の医学部受験では、勉強の量だけで差がつくとは限りません。定員や地域枠、推薦・一般選抜の変化まで見据えて、自分に合った受け方を組み立てることが大切です。
出典:
厚労省・医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(2026年4月17日)
文科省・令和7年度大学医学部における地域枠等の導入状況

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執筆者紹介
岩崎 陽一
株式会社アクト 代表取締役

PMD医学部専門予備校をはじめ、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・心理師・獣医師向け国家試験予備校を運営。長年にわたり医学部受験・医療系国家試験対策に携わる。

PMDでは、マンツーマン指導・生成AIの実践活用・ITによる学習管理を組み合わせながら、受験生一人ひとりの状況に応じた学習設計と受験戦略の構築を行っている。

医学部定員、地域枠、推薦・一般選抜の制度変化もふまえ、受験生・保護者にとって必要な情報を、現場感覚と制度理解の両面からわかりやすく発信している。